【現地レポート】新宿渋谷バラバラ殺人頭部遺棄現場
「新宿バラバラ殺人の頭、ね、芹が谷公園で出たんだって!」
と車で送りしなに母が唐突に言った。こちらは起き抜けで頭がボケてたんで
「ハァ?」
返すと子細を教えてくれた。昨晩23時位に町田からチャリで帰ってきたがそんな騒ぎがあったなど露知らず。
で、帰りに野次馬根性丸出しで、版画美術館駐車場に車を止めてとことこ歩いて行ったのだけれど人気はそんなに無く、野次馬も報道も少なく、普段通りに子供や犬を散歩させてる主婦ばかりが目立っていた。
こんなところで遺体の一部が出たとは、にわかには信じられないほどのどかな情景。
広場のあたりに、遠巻きにしてTVのレポーターとカメラがいたからしらばっくれて、
「何かあったんですかあ?」
と問うたら向こうも撮りの準備で慌ただしかったので、
「バラバラ殺人の頭が出たんですよ。」
言葉少なに答えた。
「えっ!?どこですか!?」
「あの、ホラ、ブルーシートの所。」
「えー、分かんないなー。」
ビデオカメラマンが、レポーターに囁く。
「あれ。ほら、トンカチと傘。回すよ。喋って。」
ありゃ、本番か。一発撮りだし邪魔しちゃ悪いな。
撮影を始めた彼らを尻目に、パトカーが一台止まっていて周囲に鑑識らしき警察官がわらわらと居たのでその辺だろうとアタリをつけ、それにしても何だってあんな100mくらい離れたところから望遠で撮るんだろうと思いつつさらに近づく。すると公園を二分する道路への崖のような斜面にブルーシートが張ってある。もう鑑識官は目と鼻の先。あまり近づいて写真を撮ると「消せ」などと言われかねないので全景が入る位の距離で一枚。再びしらばっくれて
「何かあったんですかあ?」
「あったんだよ。」
「えー、なんですー?」
「んー、大事件。」
「っていうと、殺人とか?」
「まあ、そう。新聞ででかでか出てたでしょ。」
「やー、起き抜けなもんで。でもこんなとこで殺人事件ですかあ?」
「いや、事件は、都内。随分報道されてたでしょ。」
「事件、ありすぎて…。」
「新宿のね、事件の、遺体の一部がね。」
「あーっ!! あのバラバラ!?(極力自然な演技で)」
「そうそう。」
「へぇー。…っていつ見つかったんですか?」
「昨日のね、夜。それからずっとだよ。大変だったよ。夜中にヘリとかいっぱい飛んでるし。」
「はぁ~、全然知らんかった。ところであの階段(ブルーシートの張ってある方を指して)、登れるんですか?」
「いやぁ、こっちはダメなんだよ。あっち(反対側)から行ってよ。」
「そうっすかー。でも立ち入り禁止のテープとか無いですけど…。」
「広すぎてね、カバーしきれないの。」
見渡すと、鑑識の制服組と一緒にスーツを着て腕に腕章をしている男性がいたので、『あれー、報道かなー。でもさっきのやつらえらい遠巻きにしてたしなー。』とよくよく腕章を見ると『捜査』とある。あ、刑事かぁ。
そのままその鑑識官と立ち話をしていたら同じ制服の二人連れがなにやら大きな透明ビニール袋を下げて移動してくる。見ると袋は二つで、ひとつにはビニール傘、もう一つには大振りなトンカチが入っている。間違いなく遺留品だろう。だが、もしそれらが袋詰めされておらず例えば一般家庭に何気なく置かれていたとしたら犯罪の匂いなど全く感じないような代物だ。ただ、トンカチは家庭で使うにはかなり大振りだったのが違和感と言えば違和感か。とは言えどちらも特に古びても真新しくも感じないただの実用品という感じだ。
僕が立ち話をしていた彼は「(忙しいから)もういいかな?」というニュアンスのことを言ったので、あまり邪魔しても何だなと踵を返した。再度報道のところまで戻ってきたら、
マイクとカメラが僕の方に向きインタビューが始まった。こういうときってレポーターに向き合うのかカメラ目線にするのか、どっちが正しいんだろう?
「何か、見えました?」
「なんか、トンカチと…。あれ?なんだっけ?(いきなりど忘れした)、あ、さっきトンカチと何とかがどうこうとか言ってませんでした?」
「傘が…。」
「ああ!そうそう。傘!ビニール傘!」
「どんな感じですか?」
「どんなって、普通のですよ。」
「錆だらけとか、そういうのは…?」
「いや、ごく普通の、どこにでもあるやつ。ただ、なんかトンカチ結構でかかったですねえ。」
そっかあ、この距離からだとよく分からないんだろうなあ。
その後、公園に関する子細を色々と問われた。
「どんなところですか?ここ。」
「普通の公園ですよ。」
「夕方6時で閉まるって聞いたんですが、その後出入りは出来るんですか?」
「出来ますよ。閉まるって言っても完全閉鎖されるワケじゃないし、単に管理人が上がるからとかそういう感じじゃないですか?」
「そうですか。夜の公園って、どんな感じです?」
「そうですねえ、僕も人づてで聞いたんでよく知らないですけど、夏場になるとホラ、ここ(広場)にやんちゃ小僧が入り込んで花火やったりとか、そういう迷惑行為をしてるってのはよく耳にしますね。ただあんまり僕、一人でここ夜来ないし(と、これは正確さを欠いていることに後から気がついた。よく考えてみれば終バスが終わった後徒歩での帰宅の時はよくここ通るんだっけ。自分、男だからいいけど女性一人じゃ怖いと思いますよ…って言い添えとけばよかった)。楽しくないですもんね。彼女とかいれば別ですけど。」
「すると、通行なんかは自由なんですか?」
「ええ、そっちとかあっちとか、階段あるでしょ。駅から帰ってくる人達が通り道にしてることはよくありますよ。それにしても、都内に住んでる人がよくこの辺に土地鑑ありましたねえ?」
「…。この芹が谷公園って、有名なんですか?」
「まあ、地元ではね、それなりに。ほら、そこに国際版画美術館とかもあるでしょ?」
「わざわざ都内の人がここまで来るって言うのは…?」
「そこまで大した公園じゃありませんよ。大体(容疑者)渋谷でしょ?ってこたぁ下北沢で小田急に乗り換えてって感じですよねえ。そうまでして来ないと思うなあ。そのまま井の頭線乗って井の頭公園行く方が普通じゃないですか?」
そう言うやりとりをしていて、どうして彼らがこんなに遠くからレポートしているのかようやく飲み込めてきた。規制線は張っていないが、おそらく警視庁サイドからの要請で「これ以上近づくな」ということだったらしい。そういうことを考えると、『何も知らない(と装っている)地元民』だからこそあそこまで近づくのかなとふと思う。報道サイドとしてもそういう事情なら、間近まで寄れた一般人に現場直近がどうなっているのかを聞く価値があると言うことなのだろう。
遺留品についてはかなり関心が高いらしく、何度も問いかけてきた。とは言っても上述の通り、それそのものが犯罪の影を匂わせていなかったので、こちらとしても『どこにでもありがちな普通のトンカチとビニール傘』としか答えようがなかった。話をするうち、頭部は穴を掘って埋めたらしいのだが遺留品は放り出してあったようなことを言う。えー?それってなんかおかしくないかぁ?それに穴掘ったって、階段脇はほとんど崖みたいなものである。よくあんなところに穴掘ったもんだなあ。いくら夜人通りが非常に少ない道だと言ったってあそこでそんなことしてるの目撃されでもしたら…、どう考えても危なすぎる。
「殺し自体は衝動的でも、バラバラにして各所に捨てるんだからいろんな意味でこのテの事件って計画性ありますよねえ?こないだの妹殺しでもそんな感じだし。それにしちゃあえらい杜撰ですねえ。」
「そうなんですよ。こちらも最初は『劇場型犯罪』って見方だったんですが…。」
「ゲキジョウ? 激情じゃなくって?(笑)」
「ああ、後者です。」
まあ容疑者が逮捕されて間がないし、まだ全容というのは掴めていないらしい。
「それにしてもこれだけの大事件なのに妙に報道、少ないですね(実際2~3クルーくらいしかいなかった)。」
「ああ、それはですね、ここで頭部が発見されたから逮捕…というより、容疑者の自供から…、というかでここに埋めたのが分かったという感じなので。」
「え?じゃあ、逮捕後なんですか?」
「ええ『逮捕』というか…、まあ供述で。それで、こういう事件だとやっぱり遺体発見よりも容疑者逮捕の方に取材が集中しますので。」
なぁるほどぉ。それがこの大事件と、未だのどかさを漂わせている公園の雰囲気との微妙なミスマッチなのかー。
「ところでこういう女性、この辺りで見たことないですか?」
彼が携帯電話の画面を見せる。容疑者である妻は30代とのことだったが、なぜか高校の制服姿だ。一瞬、「共犯?」と思ったりもしたのだがどうやら当の本人らしく、要するに今のところ写真が卒業アルバムからのコピーしか入手できていないということだろう。よくよく見たが、これが何の変哲もない女子高生である。もう少し言えば地味で人混みに入ったら群衆の一人としか思えない顔だ。
「んー、すっごい美人とかだったら、すれ違っても覚えてると思うけどねえ…。これじゃぁ…。」
ただその写真を見ての直感的第一印象としては、「なんだか、ちょっとキツそうなコだなぁ。」と思ったのは事実である。。
都合10分ほど取材を受けてじゃあこの辺でと言う時に、肝心なことを言うのを忘れていたことに気がついた。
「局、どちらですか?」
「テレ朝です。」
「スパモニ?」
「いえ、報道なんで。」
「じゃ、夕方(筆注:『スーパーJチャンネル』)とか『ニュースステーション』だ?」
「今は『報道ステーション』ですけどね。」
「へー。僕、出たがりなんでモザイクかけなくていいですよ。」
「助かります。やっぱりモザイクかけちゃうと今ひとつ信憑性が薄れちゃうんですよねえ。」
「じゃぁ夕方と夜は留守録かけときますよ。」
「使われるとは限りませんけどね。」
「いいですいいです。こんなことでデビューしようとか思ってないから(笑)。」
ところで余談ではあるけれど、インタビューに答えるのも口から先に生まれてきた僕としては全然苦にはならないのだが、少なからず映像をかじっている僕としてはそれ以上にカメラマンが使っているENG(いわゆるハンディビデオカメラ)が気になったので、
「それ、機材、なんですか?」
と聞いたら、SONYのHDCAMだと言う。
あー、今は報道系のENGでもHDCAMなんだぁ。いいなぁ。使ってみたいなあ。っていうより欲しいなあ~。あ~HDなカメラ欲しいなあ…。
そんなこんなで場を後にした。駐車場に向かう敷地内は、相も変わらずのどかなままであった。
どんなに大事件でも、自分の親類縁者友人知己が関わっているのでなければ、所詮他人事だなー、と思いつつ車を出して家路についた僕である。
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